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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)1081号 判決

昭和五六年(ネ)第七五九号事件控訴人同年(ネ)第一〇八一号事件被控訴人(第一審第一事件原告 第一審原告番号1) 関野由美子

〈ほか一二九名〉

右第一審第一、第二事件原告ら訴訟代理人弁護士 山本博

同 草島万三

同 平田辰雄

同 秋山泰雄

同 安養寺龍彦

同 中村清

同 戸谷豊

同 荻原富保

昭和五六年(ネ)第七五九号事件被控訴人(第一審第一、第二事件被告) 株式会社横浜銀行

右代表者代表取締役 吉國二郎

右訴訟代理人弁護士 小川善吉

同 山田賢次郎

同 奥平力

昭和五六年(ネ)第一〇八一号事件控訴人同年(ネ)第七五九号事件被控訴人(第一審第一、第二事件被告) 城堀簡易水道組合

右代表者組合長 山本明

右訴訟代理人弁護士 池田輝孝

同 宇津泰親

被控訴人株式会社横浜銀行補助参加人 株式会社竹中工務店

右代表者代表取締役 竹中統一

右訴訟代理人弁護士 我妻源二郎

同 海谷利宏

同 馬場康守

同 神洋明

同 江口正夫

主文

一  原判決主文第一、二項中昭和五六年(ネ)第七五九号事件控訴人同年(ネ)第一〇八一号事件被控訴人曽根聡に関する部分を次のとおり変更する。

昭和五六年(ネ)第七五九号事件被控訴人同年(ネ)第一〇八一号事件控訴人城堀簡易水道組合は前記曽根聡に対し、金一一三万六〇〇〇円及びうち金一〇三万六〇〇〇円に対する昭和五一年六月九日から、うち金一〇万円に対する本判決確定の日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

前記曽根聡の前記城堀簡易水道組合に対するその余の請求を棄却する。

二  前記曽根聡の昭和五六年(ネ)第七五九号事件被控訴人株式会社横浜銀行に対する本件控訴及び右両事件のその余の控訴人らの本件各控訴はいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち、前記曽根聡と前記城堀簡易水道組合との間に生じた分は第一、二審を通じ右城堀簡易水道組合の、右曽根聡の前記株式会社横浜銀行に対する控訴費用は右曽根聡の、その余の控訴人らの控訴費用は各控訴人らのそれぞれの負担とする。

四  この判決の主文第一項中金員の支払を命じた部分は仮に執行することができる。

事実

昭和五六年(ネ)第七五九号事件控訴人同年(ネ)第一〇八一号事件被控訴人ら(第一審第一、第二事件原告ら、以下第一審第一、第二事件原告らという。)は、「原判決を次のとおり変更する。昭和五六年(ネ)第七五九号事件被控訴人(第一審第一、第二事件被告)株式会社横浜銀行(以下、第一審被告銀行という。)及び昭和五六年(ネ)第一〇八一号事件控訴人同年(ネ)第七五九号事件被控訴人(第一審第一、第二事件被告)城堀簡易水道組合(以下、第一審被告水道組合という。)は各自、第一審第一、第二事件原告らに対し、それぞれ別紙第一審第一、第二事件原告ら請求金額一覧表中各同原告らに対応する「請求金額」欄記載の金員及びうち「弁護士費用を除く金額」欄記載の金員に対する昭和五一年六月九日から、うち「弁護士費用」欄記載の金員に対する本判決確定の日から、各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、第一審被告水道組合の控訴申立に対し、控訴棄却の判決を求めた。第一審被告銀行及び同被告銀行補助参加人株式会社竹中工務店(以下、補助参加人という。)は、第一審第一、第二事件原告らの控訴申立に対し、控訴棄却の判決を求めた。第一審被告水道組合は、「原判決中同被告水道組合敗訴の部分を取り消す。第一審第一事件原告らの同被告水道組合に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも同原告らの負担とする。」との判決を求め、第一審第一、第二事件原告らの控訴申立に対し、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次のとおり訂正及び付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(原判決の訂正及び付加)

1  原判決四枚目裏一行目及び五行目「同病院名」を「入院病院名」と、同八行目「同入院日数」を「同再入院日数」と、同八行目から同九行目にかけて「同病院名」を「再入院病院名」と、原判決六枚目裏五行目及び同七枚目表三行目の各「横抗」をいずれも「横坑」と、それぞれ改め、同五行目「山口線の」の次に「山側の」を加え、同裏二行目「滅菌装置」を「塩素滅菌装置」と、原判決八枚目表一〇行目「株式会社竹中工務店」を「補助参加人株式会社竹中工務店」と、それぞれ改め、原判決一〇枚目表一行目「腸チフス菌」の前に「海側の水槽に入った余水中の」を加え、原判決一一枚目裏一〇行目「入院雑費」を「入院日数」と、原判決一二枚目表三行目「同欄」を「「入院雑費」欄」と、同六行目「付添費」を「付添日数」と、同七行目「付添」を「付添看護」と、同一〇行目「同欄」を「「付添費」欄」と、それぞれ改める。

2  原判決一六枚目裏五行目「第一、第二事件原告ら」を「第一審原告番号七四ないし七七、九〇、九六、一二四ないし一二六番の同原告らを除くその余の第一審第一、第二事件原告ら」と、同六行目「対する」を「よる」とそれぞれ改め、同七行目「記載」の前に「中「汚水飲用年数」欄」を加え、原判決一七枚目表八、九行目「記載のとおりである。」を「中「汚水飲用に対する慰藉料額」欄記載のとおりであるが、同原告らはそのうち本件腸チフス発生前一年間分の慰藉料各自金三〇万円を請求する。」と、原判決一八枚目表一行目「翌日」を「後」と、同二行目「判決」を「本判決」と、原判決一九枚目表一行目各「水道」をいずれも「水道水」と、それぞれ改め、同一一行目「行った」の前に「補助参加人株式会社竹中工務店に請負わせて」を加え、原判決二〇枚目裏四行目「する」を「認める」と、原判決二四枚目裏四行目「水道施設管理者」を「水道技術管理者」と、原判決二八枚目裏七ないし一〇行目及び原判決二九枚目表一行目の各「横抗」をいずれも「横坑」と、同二行目及び同三、四行目「分水囲」をいずれも「分水井」と、それぞれ改め、同一一行目「五ミリ」の前に「直径」を、「穴が」の次に「随所に」を、原判決三〇枚目表九行目「五ミリ」の前に「直径」を、同裏二行目「余水」の次に「の利用施設」を、それぞれ加え、同一〇、一一行目「水道の汚染を防止すべき期待可能性がない。」を「しかも当時は水道施設として利用されていなかったのである。したがって、右工事人が本件溜枡の上に排水管を敷設し、仮にその際、右溜枡の上蓋の側溝際の部分を多少けずったとしても、工事施工に当ってその過失はなく、排水管の設置についてなんらのかしもなかった。」と改める。

3  原判決三一枚目表五行目「省令」を「厚生省令」と、同八行目「省令」を「同省令」と、それぞれ改め、同裏一行目「(1)(2)」を削り、原判決三二枚目表一〇行目「水道管理者」を「水道技術管理者」と、原判決三四枚目表二、六、九行目の各「横抗」をいずれも「横坑」と、同三~四行目、四行目及び七行目の各「分水囲」をいずれも「分水井」と、それぞれ改め、同裏二、五行目「五ないし」の前及び原判決三五枚目表三行目「五ミリメートル」の前に、それぞれ「直径」を加え、同裏四行目「水道管理者」を「水道技術管理者」と改める。

4  原判決添付の「第一、第二事件原告ら請求金額一覧表」を別紙「第一審第一、第二事件原告ら請求金額一覧表」に改め、原判決添付の「第一事件原告ら主張入院状況一覧表」及び「第一事件原告ら請求腸チフス罹患による慰藉料一覧表」中原告番号99の「中野実穂子」を「中野實穂子」と、同「第一、第二事件原告ら請求汚水飲用による慰藉料一覧表」中原告番号22の「高杉加代」を「高杉カヨ」と、同99「〃実穂子」を「〃實穂子」と、同「第二事件原告ら主張家族が腸チフスに罹患したことによる慰藉料額一覧表」中原告番号5「〃知子」を「〃和子」と、同33番の項中「小田晴彦」を「山田晴彦」と、同75番の項中「兄」を「弟」と、同97番の項中「中野実穂子」を「中野實穂子」と、同116番「斉藤清博」を「齋藤清博」とそれぞれ改める。

(当審における当事者の主張)

一  第一審第一、第二事件原告ら

1  本件溜枡付近の町道山口線の山側に沿って設置された側溝は、本件溜枡付近から七〇メートル程距った分水嶺の地点から、一方は本件溜枡方向へ他方は反対方向へ水が流れるようになっており、右分水嶺付近から本件溜枡付近までの側溝沿いは、本件チフス流行当時山林ないし草地であって人家は存在せず、したがって、第一審被告銀行湯河原寮以外の民家から汚水が排出されて本件溜枡に流入することはあり得なかった筈である。

2  仮に、第一審被告銀行に民法七一七条の土地工作物の占有者及び所有者としての責任が認められないとしても、同被告銀行は、本件溜枡が城堀簡易水道の水道施設であることは容易に認識しえたにかかわらず、右溜枡に接触して同銀行湯河原寮の排水管を敷設する工事を補助参加人株式会社竹中工務店に請負わせたものである。したがって、同被告銀行には右工事の注文又は指図について過失があるから、同法七一六条により第一審第一、第二事件原告らに対し損害賠償義務がある。

3  同被告銀行の後記2の主張のうち、本件配水池の山側の水槽と海側の水槽との間の連絡栓が閉塞されており、海側の水槽には塩素が注入されていなかったので、右水槽からの未消毒の水道水が自然流下による給水区域に給水されていたのであり、その点が同被告銀行主張の法令違反になることは認めるが、その余の事実は否認する。

二  第一審被告銀行

1  第一審第一、第二事件原告らの前記主張のうち同被告銀行湯河原寮排水管の敷設工事を補助参加人に請負わせたことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  仮に、右湯河原寮の排水管などの排水施設の設置又は保存にかしがあったとしても、城堀簡易水道の水道施設には、その水源、国鉄新幹線城堀隧道の横坑出口付近及び余水の導水管に汚染可能個所があるほか、本件配水池の山側の水槽と海側の水槽との間の連絡栓が閉塞されており、海側の水槽には塩素が注入されていなかったので、右水槽からの未消毒の水道水が自然流下による給水区域に給水されていた。右の点は水道法四条、二二条、同法施行規則一六条に違反する。したがって、仮に、本件腸チフスの発生が水系感染によるものであるとしても、それは第一審被告水道組合の右消毒設備の管理・運営のけ怠が原因であるから、前記湯河原寮の排水施設の設置又は保存のかしと本件腸チフスの発生との因果関係は中断され、同被告銀行には損害賠償義務はない。

3  第一審被告銀行は、補助参加人に湯河原寮排水パイプ設置工事を請負わせるについて格別の指図をしたことはなく、設計及び工事の監督はすべて補助参加人の責任において行なったものであるから、第一審被告銀行に対して民法七一六条による責任を問うべき場合にあたらないことが明らかであり、仮に本件腸チフスによる損害の発生について第一審被告銀行が右法条による責を負うべきものであったとしても、右原告らの右法条に基づく損害賠償請求は、その発生を知ってから三年を経過したのちに、なされたものであり、したがって既に右損害賠償債権は時効により消滅しているから、同被告銀行は右時効を援用する。

(当審で取り調べた証拠)《省略》

理由

当裁判所は、第一審第一事件原告らの本訴請求は、同原告曽根聡を除く同原告らについては、第一審被告水道組合に対し、原判決添付「認容金額一覧表」中各同原告らに対応する「認容金額」欄記載の金員及びうち「弁護士費用以外の部分」欄記載の金員に対する訴状送達日の後である昭和五一年六月九日から、うち「弁護士費用」欄記載の金員に対する本判決確定の日から、各完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、同原告曽根聡については、同被告水道組合に対し、損害賠償金一一三万六〇〇〇円及びうち弁護士費用を除く損害金一〇三万六〇〇〇円に対する前同様の昭和五一年六月九日から、うち弁護士費用金一〇万円に対する本判決確定の日から、各完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、第一審第一事件原告らの同被告水道組合に対するその余の請求及び第一審被告銀行に対する請求は理由がなく、原審第二事件原告らの第一審被告らに対する本訴請求はいずれも理由がないと判断するが、その理由は、次のとおり訂正及び付加するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の訂正及び付加)

1  原判決三九枚目表六行目「それによって」を「右尋問の結果と弁論の全趣旨により」と、同一一行目「1ないし22」を「1ないし12、18ないし22」と、原判決四〇枚目裏一〇行目「受けると」を「受けようとするとき第一審被告水道組合の承認を得ると」と、原判決四一枚目表六行目「業務執行」を「業務執行等」と、それぞれ改め、同一〇行目「その規約は」の次に「同被告水道組合定款として」を加え、同裏九行目「それによって」を「右尋問の結果と弁論の全趣旨により」と、原判決四二枚目表三行目「湯河原町では」を「湯河原町居住の住民の間で」と、原判決四五枚目裏九行目「それによって」を「右尋問の結果と弁論の全趣旨により」とそれぞれ改め、原判決四六枚目表五行目「、退院」を削り、同六、一〇、一一行目、同裏一ないし六、一〇、一一行目、原判決四七枚目表三行目の各「覧」をいずれも「欄」と、同七、八行目「それによって」を「右尋問の結果と弁論の全趣旨により」と、原判決四八枚目表一、二行目「することはできず」を「認めることはできず」と、同八行目「それによって」を「右尋問の結果と弁論の全趣旨により」と、同裏一〇行目「よるもの」を「より感染するもの」と、原判決四九枚目表五行目、一〇行目から一一行目にかけて及び一一行目の各「横抗出口」をいずれも「横坑出口」と、同裏一、二行目の各「分水囲」をいずれも「分水井」と、それぞれ改め、同四行目「山口線」の次に「の山側」を、同七行目「五ないし」の前に「直径」を、同一一行目「滅菌装置」の前に「塩素」を、原判決五〇枚目裏一行目「山口線の」の次に「山側の」を、同八行目「請負人」の次に「補助参加人」を、(それぞれ加える。)《証拠の訂正・付加省略》

2  原判決五四枚目表二行目「、自然流下により」を削り、同三行目「自然流下」の前に「腸チフス患者は、」を、それぞれ加え、原判決五六枚目表四行目「四月一四日」を「四月一一日」と、原判決六〇枚目裏四行目「姪」を「いとこ」と、原判決六一枚目裏九行目「四回の」を「四回定期的に」と、原判決六二枚目裏四行目「胃腸病院」を「胃腸科病院」と、原判決六四枚目表四行目「同月七日から一四日まで」を「同月七日ころから同月一四日ころまで」と、それぞれ改め、原判決六五枚目表三行目「多くは」の前に「長い場合は三週間位であるが、」を加え、原判決六七枚目表七行目「差」を「有意差」と改め、同八行目「食品衛生監視員」の前に「小田原保健所等の」を加え、原判決六八枚目表九行目「二月二四日」を「二月一四日」と、原判決六九枚目裏五、七行目及び九、一〇行目の各「横抗」をいずれも「横坑」と、原判決七〇枚目裏七行目「防火用水」から同一一行目末尾までを「防火用水であったが、昭和四五年ころまでには簡易水道の水道水として使用されるようになっていた。」と、原判決七一枚目表五行目「二一七」を「約二一七」、同裏一行目「鉄筋コンクリート製」を「鉄製アマグレート」と、同一〇行目「砕石」を「砕石二個」と、「水」を「水二検体」と、同一一行目「水」を「水一検体」と、それぞれ改め、原判決七二枚目表三行目「雑排水」から同九行目末尾までを次のとおり改める。

「しかし、食堂車内で発生する汚水及び手洗水は、汚水タンクに収納され、走行中は車外に排出されないが、同車内の床に溢れた水、昭和五〇年度以前に製作された車両のビュッフェ内で発生した汚水及び床に溢れた水、調理室付普通車の同室内で調理用に使用された水、洗面所の手洗水は、そのまま走行中軌道上に排出されていた。」

3  原判決七二枚目裏一、三、五、六行目の各「横抗」をいずれも「横坑」と、同八、一〇行目の各「分水囲」をいずれも「分水井」と、原判決七三枚目表一、三、一〇、一一行目の各「横抗」をいずれも「横坑」と、同一、八行目及び同裏一行目の各「分水囲」をいずれも「分水井」と、それぞれ改め、原判決七四枚目表五行目「沿って」の次に「山側に」を、同一一行目「側溝の」の次に「山側の」を、同裏一行目「埋戻し、」の次に「削った外壁部分をコンクリートで充填して」を、同九行目「が設置され」の前に「(接合井)」を、それぞれ加え、原判決七五枚目表三、四行目「右溜枡から町道山口線から湯河原寮にむかって右側の右町道から湯河原寮に至る道路部分までの間」を「右溜枡西側の町道から湯河原寮に至る道路までの土地部分」と、同裏二行目「等」を「及び湯河原寮の排水管」と、原判決七六枚目裏九行目冒頭から原判決七七枚目表三行目末尾までを「右舗装部分のコンクリートの厚さは約五センチメートルで、その下から右上蓋までの土砂層の厚さは約四〇センチメートルと窺われるが、右作業は本件溜枡の現状保存のため慎重に行うようにとの指示に従って行われたため、エアーコンプレッサーによる振動の本件溜枡に対する影響はその現状を変える程のものではなかった。」と、同裏四行目「右排水管の下から湯河原寮に向かう道路方向」を「側溝から湯河原寮に向かう方向」と、原判決七八枚目表三行目「右側」を「右(東)側」と、同四行目「左側」を「左(西)側」と、原判決八一枚目表四行目「右屎尿」を「右汚水、屎尿」と、原判決八二枚目裏五、六行目「恐れは十分にあった。」を「恐れがあったことは否定することができない。」と、同一一行目「統計」を「統計による数値」と、原判決八四枚目表六行目「塩素」を「一・五PPMの塩素」と、同裏八行目「水道技術者」を「水道技術管理者」と、それぞれ改め、原判決八六枚目裏三行目「認可」の前に「昭和五一年四月一日付で神奈川県知事から」を加え、原判決八九枚目裏一、二行目「水道技術者」を「水道技術管理者」と、原判決九〇枚目表一行目「重立った者」を「者一一人」と、それぞれ改め、同裏三行目末尾に「以上の事実が認められ、原審証人佐藤隆及び当審証人菅沼郷好の各証言のうち右認定に反する部分は、前掲各証拠に対比してにわかに措信することができず、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。」を加える。

4  原判決九一枚目裏九行目「調査されていないが、」の次に「経験則上、右品目以外の食品については腸チフス菌汚染との関連性が稀薄であると一応認められ、」を加え、原判決九二枚目表一一行目「二四日」を「一四日」と、同裏一行目冒頭から同七行目「否定される。」までを「前掲甲第三三号証によれば、右葬儀・忌中払いとの関連が考えられる患者は前記七2(二)(2)の藤倉清貴とそのいとこの当時一一才の女子とであるが、右藤倉は葬儀に出席し火葬場で茶菓及び折詰弁当を飲食したものの、その後湯河原市内の旅館で催された忌中払いには出席してはいないことが認められ、なお、証拠上、右女子が右行事に出席したかどうか、また、その飲食状況がどうであったかは明らかでないが、前掲甲第三三号証及び弁論の全趣旨によれば、右葬儀・忌中払いのその他の出席者及び家族で患者又は保菌者になった者はいなかったと認められることから、右行事で提供された飲食物を媒体として腸チフスが発生したとは認められず、したがって、前記の可能性は否定される。」と、原判決九三枚目表三行目「右地区内」から同六行目末尾までを「また、湯河原町内の特定の牛乳等販売店で販売された、牛乳、飲料水が媒体となったと認める証拠もないし、経験則上、前記二〇品目の食品とともに右牛乳等を販売していると認められるパン屋、スーパー等の食品販売店毎についてなされた統計調査において、その店からの購入の有無について患者群と非患者群との間に有意差が認められなかったことからみても、牛乳及び飲料水が腸チフス発生の媒体であるとは認められない。」と、同裏一一行目「との接触の」を「を飲用した」と、原判決九四枚目表五行目「右関連性」を「右関連性の有無」と、それぞれ改め、同裏一行目「いずれも」の次に「他の患者と」を、同二行目「ついても、」の次に「それを確定することはできないとしても、第一審被告水道組合の水道水を飲用したのではないかと疑われ、したがって、」を、同一〇行目「過去に」の前に「成立に争いのない甲第三七号証及び原審証人福見秀雄の証言によれば、」を、原判決九五枚目表七行目「分布しているが、」の次に「右発病日は保健婦による患者等に対する罹患後の面接調査等の結果により推定されたものであって、必ずしも正確なものではないうえ、」をそれぞれ加え、同九行目「強弱により差」を「強弱などにより菌感染から発病までに個人差」と改め、原判決九六枚目裏六行目「また、」の次に「前掲甲第三三号証によれば、」を、同九行目「二月中」の前に「その検査が行われたのは三月一八日以後であるうえ、」をそれぞれ加え、同一〇行目「おり」を「いることが認められるから」と、原判決九七枚目表九行目「区域に」を「区域だけに」と、同一〇行目「発生している」を「発生し、右配水池から送水される国鉄東海道線北側の湯河原町城堀地区には患者が発生していない」と、同裏一行目「右区域」を「右自然流下による給水区域」と、「他の」を「同線北側の」と、同一〇行目「合理的」を「相当」と、それぞれ改める。

5  原判決九八枚目表七行目「(これは否定される)」を削り、同裏七行目の各「横抗」をいずれも「横坑」と、同一〇行目「ないし、」を「なかった。」と、それぞれ改め、同一〇行目「本件配水池」から原判決九九枚目表四行目「いうべきである。」までを削り、同裏四行目「汚染」の前に「排水による」を加え、同五行目「清掃用」を「掃除用」と、同一〇行目「否定されるし、」を「否定される。」と改め、同一一行目冒頭から原判決一〇〇枚目表一行目「否定される。」までを削り、同三行目「鉄筋コンクリート製」を「鉄製アマグレート」と、同九行目「(い)」を「(ハ)」と、同裏七、八行目「右推測はそれ程強いものではない。」を「前記の暴露期間内又はその前後において汚染の可能性がまったくなかったことを根拠付けるものではない。」と、それぞれ改め、同八行目「甲第三三号証」の次に「及び福見証人の証言」を、原判決一〇一枚目表二行目「その者」の前に「《証拠省略》によれば、(ハ)の余水の取入口の開口部には鉄格子スラブがはめられ、わざと排便排尿などするのでなければ隧道内への立入者による汚染の可能性はないことが認められ、」を、それぞれ加え、同七行目「極めて」を削り、同八行目「それゆえ」から同裏一行目末尾までを「したがって、右隧道内への立入者による(イ)(ロ)(ハ)の各個所における汚染の可能性は少ないとしても、これをまったく否定することはできず、また、前認定のとおり、東海道新幹線の車両の食堂車の床に溢れた水、前記ビッフェ、調理室、洗面所からの排水はそのまま軌道上に排出されたところから、右車両が右隧道内を通過するときに、右排水により(ハ)の開口部を経由して水源水を汚染する可能性も否定することはできない。」と、同裏二、三、七行目の各「横抗」をいずれも「横坑」と、同七、八行目、一一行目及び原判決一〇二枚目表一行目の各「分水囲」をいずれも「分水井」と、同五行目「本件に」を「本件証拠上」と、それぞれ改める。

6  原判決一〇二枚目裏二行目「左側部分」から同六行目「壊れやすく、」までを「左(西)側部分の側溝の側壁が欠落しており、それと近接する本件溜枡の上蓋には右側溝から湯河原寮の方向に向かって幅約二〇センチメートル、長さ約四〇センチメートルの削った形跡があり、かつ、」と改め、同九、一〇行目「残置された管」の前に「温泉を引用したものと思われる廃用の」を加え、原判決一〇三枚目表九行目「推測」を「推認」と改め、同裏三行目「原因で、」の次に「右排水管からの汚水を含めて」を加え、同四行目「排出された。」を「漏出した。」と改め、同七、八行目「及び側溝と本件溜枡の距離がわずか五センチメートルしかなかった等のこと」を削り、同九、一〇行目「本件溜枡部分」を「本件溜枡の上蓋部分」と、原判決一〇四枚目表一行目「削られた」から同三行目末尾までを「削られた部分が薄くなったためその後の自然の侵食作用により穴があいたのかどうかは不明であるが、いずれにしてもその際削られたことが原因で穴があいたために、側溝内の汚水が右上蓋の穴から漏れて本件溜枡内に流れ込んだ。」と、同五行目「推測」を「推認」と、それぞれ改め、同一〇行目「破損部分」の前に「その外壁には」を加え、同裏七行目「横の溜枡」を「横の溜枡自体」と、「指標」を「証左」と、原判決一〇五枚目表二行目「穴」を「空気抜きの穴」と、それぞれ改め、同裏三行目「本件」から同八行目「あったこと、」までを削り、原判決一〇六枚目表一行目「本管」から同六行目末尾まどを「、本件配水池には余水がかなりの割合入っていたことを考慮すると、右空気抜きの穴から腸チフス菌が混入した可能性も否定することができない。」と、同一〇行目「露出」を「漏出」と、同裏四行目「配水池」を「配水池自体」と、同裏一〇、一一行目「断水があったか否かについては、不明確であるが、」を「前記の暴露期間及びその前後において断水があったと認めるに足りる証拠はなく、仮に、」と、それぞれ改め、原判決一〇七枚目表二行目「発生」の前に「顕著に」を加え、同裏一行目「と考えられる」から同二行目末尾までを「可能性があると疑われる又はそれを否定し得ない個所として、東海道新幹線城堀隧道内の余水の取水口開口部、本件溜枡、本件溜枡から本件配水池に至る導水管の空気抜きの穴が考えられる。もっとも、城堀隧道横坑出口付近で右余水の一部は宮下簡易水道へ分水されており、宮下簡易水道利用者からは腸チフス患者が発生していないことは、前述したとおりであるが、宮下簡易水道については、右分水後利用者への配水前に当然消毒されることが推認されるのであるから、右水道利用者中の患者不発生の事実をもって右余水中に腸チフス菌が存在する可能性があったことを否定し去ることはできない。」と改め、原判決一〇八枚目表三行目「あるし、」の次に「同寮の従業員八人全員について行なわれた検便、健康調査の結果でも異常のある者はいなかったし、」を、同裏四、五行目「しかしながら、」の次に「本件腸チフスの暴露期間及びその前後の相当の期間内の同寮の宿泊客その他の利用者について、前記綿貫のほかに罹患者が発生したという事実はまったく認められず、その感染源として考えられるのはかつて腸チフスに罹患したことがある永続保菌者であるが、」を、それぞれ加え、同六、七行目の各「保菌者」をいずれも「永続保菌者」と改め、同七、八行目「または罹患者」を削り、同九行目「したがって、」の前に「しかも、《証拠省略》によれば、永続保菌者も常時糞便などによって腸チフス菌を排出しているわけではなく、その間隔は不明確ではあるが、間けつ的であることが認められるので、前記の調査がなされた二九一人を含めて同寮の利用者又は従業員が右暴露期間及びその前後の相当期間内に同寮の便所などにおいて菌を排出した可能性は稀薄であるといえる。」を加え、原判決一〇九枚目表六行目「本件溜枡のほか、」から同裏八行目末尾までを「本件溜枡のほか、前説示のとおり、東海道新幹線城堀隧道内の余水の取水口開口部における走行車両の排水又は右隧道内立入者による汚染、掃除用マンホール又は水路の溜枡部分における立入者による汚染、本件溜枡から本件配水池に至る導水管の空気抜きの穴における、本件溜枡の東側の民家等からの排水による汚染も否定することができないのであり、してみれば、右第一審第一、第二事件原告ら主張の事実をもって直ちに同寮の利用者及び従業員等のうちに本件腸チフス発生の感染源となった者がいたとの判断の根拠付けとすることはできない。」と改め、原判決一一〇枚目表二行目「町道山口線」から同五行目「余水内に混入し、」を「余水中に混入したかどうかは証拠上明らかではないけれども、腸チフス菌がいずれかの経路で余水中に混入し、」と改める。

7  原判決一一〇枚目裏二行目「瑕疵」を「設置又は保存の瑕疵」と、同五行目「構造」を「構造及び機能」と、同一〇行目「開いていて、」を「開いており、」と、それぞれ改め、同一〇、一一行目「その一方」から原判決一一一枚目表二行目「運ばれ、」までを削り、同五行目「水槽」を「水槽だけ」と、原判決一一二枚目裏三行目「瑕疵」を「設置又は保存の瑕疵」と、それぞれ改め、原判決一一三枚目表九行目から原判決一一四枚目裏五行目までを次のとおり改める。

「ところで、民法七一七条にいう土地工作物の設置又は保存の瑕疵とは、当該土地工作物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいうのであるが、右の安全性の欠如とは、その土地工作物自体の性状及び設備に存する物理的・外形的な欠陥ないしは不備によって他人に危害を生ぜしめる危険性がある状態のみならず、右土地工作物の設置された場所及びその周囲の状況などとも関連して右土地工作物がその使用目的に従って使用されるときに他人に危害を生じさせる危険性がある場合も含むと解すべきところ、湯河原寮からの排水管には亀裂・不接合などはなく、同寮からの排出水等を途中における漏出もなく町道山口線山側の側溝まで送水し、右排出管自体の構造・機能・性状においては物理的な欠陥ないしは不備はないと認められるけれども、右排水管は側溝に近接する本件溜枡の上蓋にほとんど接着するような状態で敷設され、しかも右上蓋の表面の一部は前認定のとおり幅約二〇センチメートル、長さ約四〇センチメートルに亘って削り取られて薄くなり、少くとも自然の侵蝕作用により穴が生じうる状態は醸成されているうえ、右工事のときに削り取った側溝の山側の側壁の一部は、少くともその原状回復工事が粗雑で間隙部分があり、それが側溝を流れる水により欠落しやすい状態になっていた結果、右排水管による湯河原寮からの汚水及びそのほかの側溝を流れる汚水がその側壁の欠落又は間隙部分から土砂に浸透して本件溜枡の上蓋の穴(欠損部分)から右溜枡内に流入し、付近の住民の飲用などに供用する余水を汚染していたと認められるから、右排水管の設置又は保存には瑕疵があったと認められる。

なお、補助参加人は、右排水管敷設の工事人には右工事施工に当っての過失はないと主張するが、前記の第一審被告水道組合所有の水道施設の設置又は保存の瑕疵について説示したとおり、土地工作物の右の瑕疵は客観的、外形的にその有無が判断されなければならないものであるから、右工事人の右過失の有無によって前記の結論が左右されるものではない。

しかし、第一審被告銀行が補助参加人株式会社竹中工務店に右排水管敷設工事を注文するに当って、その敷設場所を特に具体的に指示したり、また、その工事について工事関係者を指揮・監督したと認めるに足りる証拠はなく、また、本件溜枡の地中に埋めて置かれている位置その周辺の状況から同被告銀行が右溜枡の位置及び状況を調査してそれを避けて右排水管を敷設するよう工事関係者に指示すべき注意義務があるとまでは認められないから、同被告銀行に右工事の注文又は指図について過失があったとはいえず、したがって、同被告銀行に民法七一六条の請負契約の注文者としての責任があるとの第一審第一、第二事件原告らの主張はこれを肯認することはできない。

以上のとおり、右排水管の設置又は保存に瑕疵は認められるけれども、前説示のとおり、余水の汚染可能の個所としては、本件溜枡のほか、東海道新幹線城堀隧道内の余水の取入口開口部など、本件溜枡から本件配水池に至る導水管の空気抜きの穴もその可能性を否定することができないうえ、湯河原寮の宿泊客その他の利用者又は従業員が腸チフス菌を排出して本件腸チフス発生の感染源となり、その排出された菌が右排水管及び側溝を経由して本件溜枡内に流入し、余水中に混入したことを認めるに足りる証拠はないから、右排水管の設置又は保存の瑕疵と本件腸チフスの発生との間の相当因果関係の存在はこれを肯認することができない。したがって、第一審第一、第二事件原告らの同被告銀行に対する本訴請求はその余の判断をするまでもなく、理由がないことに帰する。」

8  原判決一一五枚目表八行目「同102番、」の次に「同110番、同120番」を加え、同裏三行目「右各原告らは」を「右各第一審第一事件原告らのうち、同28番、同89番、同96番の同原告らを除く同原告らは」と改め、同六行目「右各原告らのうち、」を削り、原判決一一八枚裏七行目「本件に」から同九行目末尾までを「これらの事情は前記の慰藉料算定に当り斟酌した一切の事情として考慮すれば足り、別個に賠償の対象としなければならないものとは認められない。」と改める。

9  原判決一一九枚目表一〇行目冒頭から同裏一〇行目末尾までを次のとおり改める。

「ところで、被害者の身体傷害につき、一定の近親者に自己の権利としての慰藉料請求が認められるのは、右近親者において被害者が生命を害された場合にも比肩すべき又はその場合に比して著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けた場合に限られると解される。これを第一審第二事件原告らにつき個別的に検討するに、第一審第一事件原告らの入院状況、入院日数、症状等は前記五で認定したとおりであり、その他本件証拠上あらわれた一切の事情を考慮しても、第一審第二事件原告らにおいて、同第一事件原告らが腸チフスに罹患した結果前記の程度の精神的苦痛を受けたものと認めるに足りない。なお、第一審第二事件原告らは、「同第一事件原告らが腸チフスに罹患したことにより、その住居が家中消毒液を散布されたり、近隣の者や親族からさえ交際を拒否されて、村八分同様の状況におかれ、同第二事件原告らのうち学童、幼稚園、保育園児は、通学通園を拒否され、授業はもとより卒業式入学式等にも出席できなかった。また、そのうち勤務していた者は勤務先から解雇されたり、出勤を停止されたりし、商店や旅館等の自営業に従事していた者は数か月間休業を余儀なくされ収益がなかった。そして同第二事件原告らは、同第一事件原告らが隔離入院させられたことにより家族と長期間別居生活を送らねばならず、親が腸チフスに罹患し、子供だけが引取り手がないまま残されるという事態さえ生じ、同第二事件原告らのうちで患者である家族に付添った者は自分自身が長期間腸チフスに罹患したと同様の処遇を受けた。これらの事情により、同第二事件原告らは筆舌に尽し難い精神的苦痛を受けた。」と主張する。そして、《証拠省略》によれば、右主張にそう事実が認め得ないでもない。しかし、これらの事情により同第二事件原告らが被ったと主張する精神的苦痛も、ひっきょう、同第一事件原告らが腸チフスに罹患したことから派生した特別の損害すなわち間接損害であって、第一審被告水道組合が右損害の発生を予見し又は予見することができたと認めるに足りる特段の証拠もなく、したがって前記水道施設の設置又は保存の瑕疵と相当因果関係があるものとはいいがたい。それのみならず、前述したところ及び《証拠省略》により認められる次のような事実、すなわち、前記水道施設中の本管に設けられたバルブが全開にされていたならば、その水道利用者のために必要な水道水の量は本管によるものだけで十分間に合った筈であるのに、僅か八分の一程度しか開かれていなかったために必要水量を供給し得ず、本来防火用水として設けられた筈の余水を水道水として利用せざるを得なかったのであり、しかも、右余水の利用について第一審被告水道組合は所管行政庁の認可を受けていなかったこと、同組合には定款に定められた巡視員がおかれた形跡はなく、その施設の維持管理は水道技術管理者一名に任せきりにされており、かねてからその維持管理について右保健所の改善勧告が再三右管理者に対してなされていたのに、これが組合役員の側に殆んど伝えられておらず、したがって右勧告の趣旨に沿った改善措置が殆んどとられないまま本件水道水汚染による腸チフス流行にいたったものであり、もし右施設について適正な維持管理がなされていたならば、余水の汚染及びその原因が発見されて事故の発生を未然に防止し得たであろうし、また第一審被告銀行湯河原寮の排水管設置工事についても、その工事開始前、少くとも工事開始直後にこれを知って善処し得たであろうこと、第一審第二事件原告らは第一審被告水道組合の組合員もしくはその家庭であるところ、右組合においては監事が各事業年度毎に総会を招集し組合員らに対して業務執行の状況を報告するものとされ、また組合員は総組合員の五分の一以上をもって総会招集を求め得、議事について組合員の過半数を以て議決するものとされているのであり、組合員はいわば理事、監事らの役員を通じて水道技術管理者を監督し、水道施設の適正な維持管理についても一半の責任を負うべき立場にあり、同第二事件原告らが第一審被告水道組合に対して損害賠償を求めうるものとしても、その負担は結局同原告ら自身に帰せしめられるであろうこと、さらには本件腸チフス流行について湯河原町内外から相当額の義捐金が寄せられ、同町は同町としての見舞金とあわせて、入院患者一一一名に対し各四万一〇〇〇円、入院患者世帯八五世帯に対し各五万円、再入院患者二六名に対し各五万円、再々入院患者に対し五万円、その他疑似患者世帯八世帯に対し各五万円を配分していること、その他記録にあらわれた一切の事情を考慮すれば、みずから腸チフスに罹患した第一審第一事件原告らはともかく、同第二事件原告らとしては、その精神的損害に関するかぎりこれを受忍すべき限度を越えないと判断するもやむを得ないというべきである。よって同第二事件原告の右慰藉料請求は理由がない。」

10  原判決一一九枚目裏末行冒頭から原判決一二一枚目表初行末尾までを次のとおり改める。

「5 汚水を飲んだことによる慰藉料

第一審第一、第二事件原告らは、第一審被告水道組合及び同被告銀行に対し、同被告水道組合が給水した汚水が混入した水道水を飲んだことによる慰藉料を求めているのでこれを判断する。

同被告水道組合の余水に本件溜枡部分で前記湯河原寮からの排出水その他の汚水が混入し、また、東海道新幹線城堀隧道内の余水の取入口開口部など及び本件溜枡から本件配水池に至る導水管の空気抜きの穴から汚水が入り込む可能性を否定することができないことは、前記七で認定したとおりである。しかし、右の汚水混入の頻度、量、混入した汚水中に含まれる細菌、化学物質等の人体に有害なものの量、同被告水道組合の給水量との関係で各家庭に給水された水道水中に含まれる有害物質の量等は、本件証拠上明らかではなく、また、汚水の混入した水道水を飲んだことにより、本件チフス発生による患者のほかには、健康を害した者がいたことも認められない。《証拠省略》中本件水道水の飲用により健康に異常を生じたとの趣旨の部分は、具体性に乏しく採用しがたいところである。第一審第一、第二事件原告らの本請求は要するに本件水道水の汚染により蒙った精神的損害の賠償を求めるものというべきところ、前記のような事情その他記録にあらわれた一切の事情を斟酌するときは同第一事件原告らについては本件水道水の飲用により精神的損害を蒙ったとしても右損害が前記理由一一4(一)において認容した腸チフスに罹患したことによる損害とは別個に生じた損害とは認めがたく、同第二事件原告らについては、その精神的損害の賠償を認容しがたいこと、前記理由一一4(二)に説示したとおりである。よって右慰藉料請求は理由がない。」

11  原判決一二一枚目表九行目「である。」から同裏三行目までを「であり、かつ、右金員に対して本判決確定の日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を付するのを相当と認める。」と改める。

12  原判決添付「認容金額一覧表」のうち、原告番号54の曽根聡の項中認容金額欄の「一一三万三〇〇〇」を「一一三万六〇〇〇」と、弁護士費用以外の部分欄の「一〇三万三〇〇〇」を「一〇三万六〇〇〇」と、同99の「中野実穂子」を「中野實穂子」と、合計の項中認容金額欄の「二八四四万九三八〇」を「二八四五万二三八〇」と弁護士費用以外の部分欄の「二五八三万九三八〇」を「二五八四万二三八〇」と、それぞれ改め、原判決添付「認容損害金額一覧表」のうち、原告番号54の曽根聡の項中入院雑費欄の「三万八五〇〇」を「三万九〇〇〇」と、付添費欄の「一九万二五〇〇」を「一九万五〇〇〇」と、認容損害額合計欄の「一一三万三〇〇〇」を「一一三万六〇〇〇」と、同82の今村久美の項中認容損害額合計欄の「四五万四五〇〇」を「四五万五五〇〇」と、同99の「中野実穂子」を「中野實穂子」と、それぞれ改め、原判決添付「第一事件原告ら認定入院状況一覧表」のうち、原告番号54の曽根聡の「再隔離入院日数」欄の「五三日」を「五四日」と「付添日数」欄の「五三日」を「五四日」と、同99の「中野実穂子」を「中野實穂子」と、それぞれ改める。

(結論)

以上の次第で、第一審第一事件原告らの同被告水道組合に対する本訴請求は原判決添付「認容金額一覧表」(ただし、同原告曽根聡については前記訂正後のもの)の同原告らにそれぞれ対応する「認容金額」欄記載の各金員及びうち「弁護士費用以外の部分」欄記載の各金員に対する本訴状送達の日の後である昭和五一年六月九日から、うち「弁護士費用」欄記載の金員に対する本判決確定の日から、各完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであり、同原告らの同被告水道組合に対するその余の請求及び第一審被告銀行に対する本訴請求並びに第一審第二事件原告らの第一審被告らに対する本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきであり、原判決主文第一、二項中第一審第一事件原告曽根聡に関するこれと異なる部分は失当であるから原判決主文第一、二項中同原告に関する部分を本判決主文第一項のとおり変更し、右部分を除く原判決は前記の結論と趣旨を同じくし相当であって、同原告の第一審被告銀行に対する控訴、同原告を除くその余の第一審第一、第二事件原告ら及び第一審被告水道組合の本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、九二条、九五条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森綱郎 裁判官 片岡安夫 裁判官藤原康志は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 森綱郎)

〈以下省略〉

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